正しい人10月:泉 大の「悪人オリンピック」





10月
泉 大「悪人オリンピック」
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「アウトレイジ ビヨンド」 
監督•脚本:北野武
出演:ビート武、西田敏行、三浦友和、小日向文代、その他
2012年10月6日公開予定  







北野武監督作『アウトレイジ ビヨンド』が公開されます。前作『アウトレイジ』の続編です。
全員善人だと気持ち悪いですが、全員悪人となると爽やかです。

高倉健さんの『あなたへ』を観ましたが、やはり高倉健さんは北野武監督のヤクザ映画には出れそうにありません。
彼は一連の仁侠映画で人をたくさん殺してきましたが、殺す動機があまりにも善人すぎます。
人を殺すことに変わりはありませんが、それでもやはり違います。
人情・恩・義理を重んじ、それを踏みにじられ、耐えに耐えたあと、やむなく切る、という殺人ですが、
『アウトレイジ』では最初からそれら全てを裏切り、自己の利益を求めたさっぱりとした殺人です。
真の暴力に人情は似合わないということでしょうか。
高倉健さんが歯医者の歯を削る機械で人の口の中をめちゃくちゃに掻き回す、

というのは想像できませんし、それこそ映倫でひっかかりそうです。

高倉健さんは本当に稀有な俳優です。こんな俳優はもちろん彼一人しかいません。
デンゼル・ワシントンだってあれだけ善人イメージがありましたが

『トレーニング・デイ』という素晴らしい映画で鮮烈な悪人を演じ、現在公開中の
『デンジャラス・ラン』でも悪人役でした(ただこっちの彼は中身は善人という印象でしたが)。
高倉健さんの弱点があるとすれば、あまりにも善人すぎるところでしょうか。
ただ、彼は当然そのイメージの重みに苦しめられてきたはずです。
その証拠に、彼の斜め下に視線を向けている顔を思い浮かべてください。
こんなにも切なく、悲しみをたたえた顔は誰にでもできるものではありません。
この顔こそ生涯を賭けて善人を引き受けた男の顔です。

『アウトレイジ』は暴力描写が話題になりましたが、一番の暴力シーンは、

加瀬亮の落ちたサングラスを椎名桔平が脚で払うシーンだと思います。
これだけだと何のことか分からないでしょうが、脚とサングラスだけが抜かれたカットで、

この映画のある意味ではハイライトなのかもしれません。本当の冷たさが映っています。
『アウトレイジ ビヨンド』に期待するのはあれ位の凄みを持ったカットです。
いい大人が心底震え上がるような冷徹な暴力、悪を見せてほしい。
みんなが思っている悪の記録を塗り替えるような悪。世界新記録の悪。
オリンピックの金メダルはかったるいですが、こっちの金メダルには興味があります。







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