正しい人 7月 : 小栢 健太のキャロル・ボーヴ

7月
小栢 健太 キャロル・ボーヴ
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Carol Bove
born in 1971 in Geneva, Switzerland and  based in New York City. 



  


 

Art in America 









 

 スイスのジュネーブに生まれる。カリフォルニアを経て、現在はニューヨーク市のブルックリンに住む。工業地域の一角らしい。アトリエと住居を工業地域に構えるその理由に、製作所脇で廃品に出会うことや、近辺の工場に金属加工を頼み込めることが、制作に欠かせないことを挙げる。生活からはそう遠くない場所で物体を発見し拾う。古書店でみつけた写真や古書と共に木製の書架にそれらを陳列させる。彼女が表現を組織する方法。本人も自認するようにファウンド・オブジェクトやアッサンブラージュといった手法は、シュルレアリスムの常套手段だ。「アメリカのアートの地層にはシュルレアリスムが脈づいている。特に西海岸では。」、知性的でありながら、外見はそれなりに下品、パーフォマティブな側面とも分かち難く結ばれている。西海岸のアートを僕は前々からそう思うようにしている。
 

 僕の手元には『NOW ON DISPLAY CAROL BOVE』と題された造本的に編集されたリーフレットがある。これは5名のアーティストによる展覧会を記録している複数作家の記録でありながら、ボーヴの名の元で発行されているものだ。インスタレーションを記録し、印刷物にすることがアートワークの一部となって久しい。とくに珍しいことではない。シュルレアリスムでは特に頻繁だ。写真化された結果が強い魅力を放つことを、ボーヴはおそらく自覚している。幸か不幸かフォトジェニックなのだ。結果的に画中画を為す状況を僕は見ている。どこかで出版された写真が周り巡って再び誰かに発見される手続き。
 

 写真とアートはようやく新しい関係に入ってきていると僕は確信している。僕自身の歴史観は、既存のアーカイブを再組織化し配列を変えることで、異なる文様へと誘うような、ある意味で一個の写真を信じない態度を、少し前の眺めと捉えだしている。ぼかしたり掠れさせたりすることもその一部と思う。新しいイメージを求めて写真を撮ることすらその一部かもしれない。彼女は思う。思想がアメリカのフィルターを通して受容される60年代から70年代に興味があると。思想はテキストよりも写真や映画のほうがはるかに鮮烈に沁み渡った。テレビとは言わないまでも、受動的なモデルから組み立てる新しい写真の存在論では、オブジェや貝殻や石膏や硝子たちの自律をことごとく軟化させる。写真は見るというよりは、置いてある。
 

 アメリカ・モダンと戦後の20世紀のカルチャーに対して、僕にも何か言えることはある気がして来る。


"In California―Berkeley, San Francisco―there's a tradition of found-object assemblage, stuff that is almost naively inherited from Surrealists. There was a kind of beat culture, exemplified by Wallace Berman, that seems like Surrealism plus the Kabbalah, which is an interesting formulation. My early experiences with art-making were through that instantiation of Surrealism. "
 


「カリフォルニア、詳しくはサンフランシスコ、バークレイでは、ファウンド・オブジェクトをアッサンブラージュする伝統があって、もちろんシュルレアリスムから受け継いだものですが、こうした背景にはある種のビート・カルチャーも絡んでいて、ウォラス・バーマンがその代表です。彼らはシュルレアリスムにカバラを接ぎ木した思想を持つという、とても興味深い形を持っていました。私がアートをはじめたとき、こうしたシュルレアリスム配下から派生した芸術の影響はさけられないものだったと言えます。」ー*a

*a:ウェブサイト『Art in America「CAROL BOVE by brian sholis」』から引用、和文は筆者訳。





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