正しい人8月:泉 大の「平成侠客伝 血染めの仁義」

8月
泉 大 「平成侠客伝 血染めの仁義」
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 








 高倉健さん主演、降旗康男監督作『あなたへ』が公開されます。
 『居酒屋兆冶』『夜叉』『駅 STATION』『あ・うん』『鉄道員』などこのコンビでは大好きな作品が多数あります。高倉健さんは現在81歳。東映の『日本侠客伝』シリーズ、『昭和残侠伝』シリーズ、『網走番外地』シリーズなど仁侠映画に多数出演され、東映を退社。その後は、それまで幾度となく演じてきた渡世人的役柄ではなく、いわゆる娑婆の人間を演じてこられました。

 普通俳優というのは、その都度役に合わせ演じ分けますが、高倉健さんは違います。常に人情、義理、恩、礼節を、生きる上での基本として持った人間を演じ、全ての役柄を超えて、高倉健、としてスクリーンに投射され続けています。他人に憧れることなどありませんが、高倉健さんに限っては、多くの彼のファンと同様、それに近い感情を持ちます。
 彼の映画を見ていると、傑作とか、そうじゃない、ということなどには興味がなくなり、一本の映画が、作品、であることがつまらなく感じ、高倉健さんを中心とした、人間が映っていて動いていること自体に感動します。

 この、映画や音楽、絵画など創作物が、作品、として着地もしくはパッケージングされることに違和感を抱いている、というような内容の、ある人の文章を目にしましたが、これには共感します。自分にとって映画の魅力は、いい大人が寄り集まって時には大金をかけ、脚本を書き、演技をし、カメラや録音、大道具小道具を用意し本気で遊んでいるところです。絵でも、お金をかけ、せっせと絵の具やキャンバスを買い集め、結果、何の実用性もない、絵、が出来上がること。その金を捨てるような快感と、描いている時間のスリル。自分にとってはそこが絵を描くことの魅力です。映画史や美術史を知っている位でいい気になるようなケチな人間にはなるな、高倉健さんの存在がそう言っているように感じます。

 最近の彼のインタビューで、引退を考えていたが共演した先輩である大滝秀治さんを見て、まだ役者としてやっていきたい、という考えに変わられたそうです。そうなると『あなたへ』の後、高倉健さんに望むのは、最後のヤクザ映画、でしょう。監督はマキノ雅弘とはいかないので、北野武で、富司純子や津川雅彦、菅原文太、渡哲也、中村玉緒、里見浩太朗、待田京介など、老人ばかりの攻めまくるかっこいいヤクザ映画を見たい。イーストウッドが『許されざる者』で西部劇に終止符を打ったように、健さんにヤクザ映画の終止符を打ってもらいたいものです。





リスト : 泉 大 | ドラマー、ペインター